8月28日、是枝裕和監督最新作『真実』が、第76回ヴェネチア国際映画祭 コンペティション部門オープニング作品に選出されたことを受け、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、リュディヴィーヌ・サニエ、クレモンティーヌ・グルニエ、マノン・クラヴェル、そして是枝裕和監督が記者会見とフォトコールに参加しました。
【公式記者会見】
Q:映画の制作、出演のきっかけ。
是枝監督:まずはこの素晴らしいキャストとともに作り上げた本作をオープニング作品に選んでいただいたヴェネチア国際映画祭の方々に、この場で感謝したいと思います。ありがとうございます。
元々は、楽屋のシーンだけで出来上がる舞台を考えていました。しかし、実際に映画が動き出したのは、ジュリエット・ビノシュさんから一緒に映画を作る冒険をしないかと、2011年に提案をいただいたことがきっかけです。その時点では、日本で撮るのか、フランスで撮るのかといった確たる目標があったわけではないのですが、ふと、あの話をフランスで撮ってみようかと思いつきました。戯曲の主人公は、その国の映画史を代表する女優だったので、もしかすると、そのような女優さんを撮るチャンスが生まれるのではと思ったんです。そこで、大幅に戯曲を書き直して、母と娘の話に仕上げました。脚本が完全に固まる前の段階で、何度もお二人にお会いして、インタビューをさせていただき、女優という人生を送られている方の生の言葉を、どのように脚本に落としていくかという作業を、継続的な信頼関係のなかで、数年に渡って行っていきました。その結実したものがこの『真実』です。
カトリーヌ・ドヌーヴ:是枝監督が言ったように、脚本の初稿を読んだ後で会いました。それからパリ、そしてカンヌで会って、日本でも会いました。こんなことが1年以上続きました。面会や本読み、コメントを通して、彼が言ったように、作られていったのです。是枝は映画の中で演じる人物を少しずつ私たちに近づけることを考えていました。私の場合、映画に出演する時は、人物を演じるにしても、自分というものを作品に投入します。特に今回は、関係が複雑なのは分かっていました。是枝は英語もフランス語も話さないので、いつも通訳を挟んでの会話です。それも悪いことではありません。大事なことを話すように促されるからです。
ジュリエット・ビノシュ:是枝監督と仕事をすることは数年前からの夢でした。是枝は2011年と言ったかと思いますが、私はもっと前からだと思います。12年前……。(会場に向かって)14? 2014年?14年前? 14年前ね。京都で一緒になりました。特別な機会でした。本当に夢のようでした。是枝監督の映画に出ることは、役者が監督に対して抱く夢を実現することです。さらにカトリーヌとの共演も夢のようです。『ロバと王女』は私が子供の頃大好きな映画でした。彼女と共演できたことは光栄で夢のようです。だからこの映画は私にとって夢の実現なのです。それに未来の頼もしい才能に出会うこともできました。私にとってとても鮮烈で、貴重な経験でした。
カトリーヌ・ドヌーヴ:私もジュリエットと共演したいと思っていました。彼女の映画はほとんど全部、見ています。でも不思議なことに、これまで一度も共演したことがなかったのです。初めての共演はうれしい驚きであり、待ち望んだものでした。
リュディヴィーヌ・サニエ:最初に言いたいのは、私もかなり前から是枝監督を知っているので、彼の映画に出ることは夢の実現でした。ジュリエットほど昔ではありませんが、5~6年前に是枝監督に会いました。女優の役に私を考えてくれていたことに、驚きました。カトリーヌと同じように、私もこの女優と自分とが似ているとは思いませんが、演じるのは楽しいものでした。本物らしさを追求したからです。とても軽くて無邪気に見える人物ですが、何と言うか、問題を抱えています。楽しかった。それにコメディーも追究しました。この人物において、コメディーの喜びは、本物で具体的でした。私とは最も離れたところにいる人物を演じたいという欲求もありました。
マノン・クラヴェル:第一に、私にとって初めての長編映画で、人生において最も美しく偉大な経験でした。それまでの経験はとても小さなものでした。今回の人物を演じるにあたっては、キャスティングから撮影までの間、さらに撮影中においても、常に話し合いを行いました。この人物を創作するための、真の会話でした。私の場合、この人物は、私に近いところがあります。是枝監督と一緒に作り上げたのです。これは本当に面白い経験でした。私から出発し、ある種の方向性を推し進め、神経症的な要素を加え、それを引き延ばし、ある種の夢や恐怖を加える。こうして私が演じる人物が出来上がりました。
Q:監督は「家族」をテーマにした映画を作ることを得意としていらっしゃるようですが、あなたの目から見たら、このフランス人とアメリカ人の家族はどのような家族なのでしょうか?
是枝監督:今回の作品はファミリードラマの要素もあるのですが、演じるということを通して、一組の母と娘が和解とは言わないまでも、お互いがお互いの人生を、つまりは自分自身の人生を少しだけ受け入れて先に進むという、そのような女性二人の話を書きたいと思っていました。その二人の周りには、血縁関係に関係なくいろんな女性や男性がいて、その輪が広がっていくことで、いろんな場所に魔法が使われて、その魔法には嘘も含まれているんですが、それが人と人を繋いだり、和解させたりしていくという、そのような物語を描きたいと思いました。
Q:ドヌーヴさんは先ほど、ファビエンヌにご自身をかなり込めたとおっしゃいましたが、ご自身とファビエンヌというキャラクターにどれくらい観客が共感することを望んでいらっしゃいますか?
カトリーヌ・ドヌーヴ:私が映画で演じる時は、どうしても自分が入ります。でもこの人物は私とはかけ離れています。だからとても愉快な経験でした。女優を演じながら、自分とはかけ離れた人物を演じている印象だったのです。この女優の世界は私とかけ離れています。娘との関係も、私のとは非常に異なります。ですから女優を演じるのは興味深くて愉快でした。私とかけ離れている女優ですからね。私が経験したこと、私が知っていることと違います。だから私自身と映画で演じた人物の間に類似性を見い出すのは、難しいですね。彼女のことはよく理解できます。演じるのも楽しかったですが、本当に自分とはまったく別の人物を演じているようでした。
Q:カトリーヌ・ドヌーヴさんとジュリエット・ビノシュさんに質問です。映画の準備の話をされました。どんな経験だったかを教えてください。撮影についてお話しいただけますか? 言語の壁についても言及されました。どんな経験でしたか?困難や試練があったのでしょうか?
カトリーヌ・ドヌーヴ:とてもユニークで複雑な経験でした。最初の週は少し大変でしたね。ある人を見ながら、他の人の話を聞くのに慣れるまでに時間がかかりました。なぜなら話は是枝監督の通訳を通していたからです。でも時間が経つと…。まず質問したり、何か言いたい時は、肝心なことに絞って話します。撮影についてのおしゃべりがないのです。それはかなり特殊なことでした。でも顔を見て、表情を見れば、何かが読めます。監督が通訳を通してコメントを伝える前に、彼の顔を見て感じました。彼が望んでいる方向に進んでいるのか、そうでないのかを感じたのです。確かに特殊でユニークな経験でしたし、一般的に生活で感じるコミュニケーションの大きな制約を超えるものでした。でも経験してよかったと思います。是枝監督と一緒に撮影できて幸せでした。直接思いを伝えられないというフラストレーションはありましたけどね。
ジュリエット・ビノシュ:私は撮影の前にしっかり準備したいタイプなのですが、準備できるか尋ねた時に、「是枝監督は役者が準備することをあまり好まない」と聞いたので、戸惑いました。最初は是枝監督の指示を待ちましたが、撮影中に彼が私と一緒に演じていることに気付きました。私と一緒に呼吸し、言葉が理解できなくても、一緒に演じていたのです。私は彼が求めるものを漠然と理解しようとしていました。そのうち夕食のシーンの撮影がありました。私がカトリーヌを挑発するシーンです。これは2人の関係がクライマックスに達する瞬間であり、「真実」について、ついに母親を攻撃する場面です。私が演じる人物は母親のウソによって傷ついた女性です。母親の言葉の中に真実を見つけられず傷ついています。私は完全に役に入っていました。カトリーヌが映画の中で「なんて深刻なのかしら」というように、私が演じる人物は実に深刻なのです。その部分を表現すべきだと思いました。わたしは深刻な側面を押し出しました。その瞬間から、確か翌日だったと思いますが、是枝監督はラッシュを見て、「シーンに重みを加えてくれてありがとう」と言ってくれました。穏やかに港を目指す船のようでした。他の役者たちを乗せてくれたのです。カトリーヌと私以外にも人物はいますが、この2人の関係が映画の中心です。これまで映画で共演したことも、他の状況で一緒になったこともない女優たちです。その2人が出会って、何年も待ち続けた映画に出るのです。そういう意味では映画の魔法です。思いもしなかった時に、私たちを引き合わせてくれたのですからね。
Q:今回のクレモンティーヌ・グルニエ(子役)の立ち位置と演出について
是枝監督:オーディションで会ったとき、とても自由奔放で、彼女なら、おばあちゃん(ファビエンヌ役)の性格が隔世遺伝で孫に伝わっているという設定に出来るなと思いました。そこで彼女に合わせて、キャラクターを書き直しました。日本での撮影と同じように、事前に台本を渡さずに、おばあちゃんの家に遊びに行く話だよと言うことだけ伝えて、あとは現場では通訳を介して、「おばあちゃんにこういってごらん」、「ママのいったことを繰り返してごらん」と、口伝えで台詞を渡すというやり方で全編撮影しました。彼女の存在が大人たちのお芝居にもいい風を吹かせてくれたなと思っています。そして、ここに並んでくださった女性キャスト陣のアンサンブルの一角をちゃんと担ってくれたなと思っています。本当に感謝しています。
Q:監督の映画に出演してみて
クレモンティーヌ:グルニエ:撮影した時、最初は言われたことがよく分からなかったけど、途中から何を求められているか分かってきました。どこに立って、何を言えばいいかも。最初は、どこで何を言えばいいか、間違ってばかりだけど、途中から成長して、うまくなりました。
記者会見・フォトコールの後、レッドカーペットが行われました。
快晴のヴェネチア、リド島で開幕した第76回ヴェネチア国際映画祭。大勢のマスコミや観客があふれる中、オープニングのレッドカーペットに登場した、イタリアのファッションブランド、アルマーニのタキシードとえんじ色の蝶ネクタイの是枝裕和監督。
フランスのファッションブランド、ジャン=ポール・ゴルティエの朱色と黒のドレスに身を包み、さすがな貫禄を見せるカトリーヌ・ドヌーヴ。是枝監督と同じくアルマーニのセクシーなドレスで大人の魅力溢れるジュリエット・ビノシュ。フランスのファッションブランド、シャネルの黒のジャケットとミニ丈ボトムスのセットアップでスタイル良くクールにきめた、リュディヴィーヌ・サニエ。ジュリエット・ビノシュの娘役で8歳、映画初出演のクレモンティーヌ・グルニエはフランスのファッションブランド、クリスチャン・ディオールの白のドレスで天使のような可愛さをふりまいていました。
またこちらも長編映画初出演のマノン・クラヴェルはイタリアのファッションブランド、プラダのチューブトップドレスで大女優たちに囲まれながらも堂々とシックにきめていました。観客からは「コレエダ!」という歓声が上がり、是枝監督の国際的な人気ぶりが伺えました。またジュリエット・ビノシュ、是枝監督は会場に集まった観客の元へ駆け寄り、サインといったファンサービス行う様子も見せました。レッドカーペットには審査員グループとして塚本晋也監督も登場。ニコラス・ホルトなどの人気俳優も登場し、映画祭のオープニングイベントを大いに盛り上げていました。
『真実』
10月11日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ギャガ
©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA
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