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バリー・ジェンキンス監督、去年のアカデミー賞での“あの出来事”がトラウマに?

13日、映画『ビール・ストリートの恋人たち』の日本公開に先駆け、バリー・ジェンキンス監督が初来日。アーティストのコムアイさんとジェンキンス監督によるトークイベントが行われました。

お茶目なジェンキンス監督。

『ビール・ストリートの恋人たち』は、昨年、アカデミー賞作品賞に輝いた『ムーンライト』を手がけたジェンキンス監督の最新作。1970年代NYハーレムに生きる若い二人の愛と信念の物語を、圧倒的な映像美と叙情的な音楽で描き、今年のアカデミー賞では助演女優賞、脚色賞、作曲賞の3部門でノミネートされています。

ステージに登壇した監督は、アカデミー賞授賞式を控えた今の心境を聞かれると、「ワクワクしていますが、去年いろいろあったので、ちょっとPTSDを抱えてます」と、いきなり去年の騒動を回顧。紙にかかれた文字を確認するフリをして「ムーンライト」と、あの名場面を自ら再現し、観客を笑わせました。

そんなお茶目なジェンキンス監督ですが、映画の話になるとさらに饒舌に。『ビール・ストリートの恋人たち』は、ティッシュとファニーという若いふたりの愛と、憎しみに変わるような理不尽なことが併行して起こる作品。愛と憎しみを同時に描く難しさを聞かれると、「とても悩んだ部分でもありました。この作品には原作があり、原作は原作者の視点で書かれています。でも映画はティッシュの視点で描こうと考えました。その時、そのバランスは化学的なアプローチをとることにしました。同じ液体でも密度が違えば、量が違ってもいい。つまり、愛と社会的な不公平さは密度が違えば、フィフティ・フィフティに描かなくてもいいということ。不公平さが少なくても密度が重いぶん、バランスはとれる思ったのです」と語りました。

ただし、その部分が原作に魅了された部分でもあるよう。「映画のなかで恋愛を描く時、現実、政治的、社会的な文脈と切り離されて、ロマンスだけ、が描かれがち。でも、我々も社会の一員はわけで、ふたりの恋人のなかにも社会的な階級が違ったり、セクシャリティが違っているなど、さまざまな文脈に付随して描かれるべきなんだと思います。この作品に私が惹かれたのは、社会的、人種差別、人種の問題が描かれていることでした」。

ゲストのコムアイさんの質問に大感激

コムアイさんとバリー・ジェンキンス監督。

今回は、水曜日のカンパネラのコムアイさんが、ジェンキンス監督にステージ上でインタビュー。
コムアイさんが、「ジェンキンス監督の作品は、ある出来事があって、そのことを伝えるのではなく、その出来事によって登場人物たちが感情をゆるがせ、いろいろな表情をします。その細かさが他の監督と違っていて、それが見どころだと思います。そういうところが、きっと日本のお客さんは好きだと思います」と感想を述べると、監督は「映画はそういうものを捉えるのに向いていると思います。人の内なる感情を表現するのには、文学がいちばん優れていると思っていますが、人って実は顔の表情でいろいろ表現してますよね。言葉で伝えるよりも。だからこういったシンプルな物語のなかで、私が役者に探すのは、感情が揺らぐ瞬間、変化する瞬間。観客が入り込めるような作り方をしています」とコメント。

コムアイさん。

さらに「最初の30秒で監督が音楽をとても大事にしていることがわかると思います。原作に音楽の描写が多いのですが、原作と違う音楽をぶっ込むというか……。音楽のニコラス・ブリテルに音楽を作り変えてもらう決断に勇気は必要だったのでしょうか?」と質問すると、監督は「彼女は素晴らしい。半年間、取材を受けてきましたが、この質問ははじめでです」と、的を射た質問に大喜び。

「そうなんです。原作に音楽についての描写がたくさんありますが、違う方法をとりました。先ほども言ったように、原作は作者のジェイムズ・ボールドウィンの視点で書かれていますが、映画はティッシュ、一部はファニーの視点で描こうと思った時点で、原作で描かれた音楽の制限から解放されました。そして、役者がそのキャラクターになる時、彼らの曲はどうなんだろうと考えました。最初は全部ジャズにしようと思いました。でも、編集中にちょっと違うと思ったんです。私のなかではティッシュの感情はチェロが表現していると思ったので、管楽器でやっていた部分を弦楽器にしてみたらぴったりはまったんです。弦楽器だと思っていたものを管楽器でやったらピッタリだったり。そうやって作業を進めました。映画の音楽は、観客に感情を押しつける使い方は多々ありますが、ニコラスの素晴らしいところは、映画を見て、キャラクター、役者が何を感じさせてくれるかを音楽を通じて伝えようとしてくれる。ティッシュの音楽は悲劇と子どもの誕生、愛と憎しみ、命と苦しみ表現できたと思います」。

バレンタインデー前日ということで、ティッシュとファニーをデザインしたチョコレートのプレゼント。

続いて、コムアイさんが、この作品と『ムーンライト』の脚本は、2013年にベルリンでこもって書いたそうですが、、なぜヨーロッパだったのですか? と質問すると、監督は「アジアが遠すぎたのでヨーロッパにしました」と冗談を言った後、「ジェイムズ・ボールドウィンはあちこちを旅しながら執筆しており、私も自由に旅をしながら書きたいと思ったのです。『ムーンライト』は戯曲、『ビール・ストリートの恋人たち』は小説が原作です。映画にするには映画化権をとらなければいけないのですが、脚本を書いた時点では2作品とも映画化権はクリアになっていませんでした。でも、自分のキャリア、今後への期待、業界などから、自分を解放して書かなければならないと思いました。もし許可が出なくても、書きたいことを書こうと思っていました。そこから学んだのは、人生で立ち止まることがあったとしても、結果を心配するより、クリエーションに対する愛、まず作るということです」と回答。

これにはコムアイさんが「素晴らしい」と感嘆の声をあげ、「私もこの作品を見て、計画が先ではなく愛がまずあって、計画がそれについてくることを学んだ、とあるインタビューで言ったんです。私も絶対に愛が先の人なので」と、監督と意気投合した様子でした。

『東京物語』に影響を受けた

『ムーンライト』執筆中は、ウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』の影響を受けたというジェンキンス監督。今回は、映画より70年代のハーレムで撮られた写真、ハーレムで活動していた写真家たちを参考にした部分が多いのだとか。さらに、「小津安二郎監督の『東京物語』から影響を受けている部分もあります」と発言。

うれしそうにチョコレートを見せる監督。

「それはキャラクターが観客に視線を合わせるシーンです。文学は、自分を没入でき、台詞は直接響いてくるし、味の表現があれば、読み手もそれを感じることができます。映画はそれがなくて受け身な体験になりますが、キャラクターたちと目を合わせることで、観客の方々にとっても能動的に変わると思います」「日本にはあまり黒人はいないと思いますので、観客の方々には、映画を通じて、アフリカ系アメリカ人の体験をしてもらえたらと思っています。これは映画の贈り物です。ぜひ足を踏み入れていただければと思います」と、アピールしていました。

『ビール・ストリートの恋人たち』
2月22日(金)、TOHO シネマズ シャンテほか全国公開
配給:ロングライド
©2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

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